ホーム > 当院について > 病院報 > 病院報 2005年春号 Vol.7 > これからのキズの治し方
整形外科 医長 中川 洋寿
「キズができたときには、消毒してガーゼ」。昔から当然のように思われ病院でも行なわれてきたこの治療法、最近は考え方が180度変わってきているのです。最新の約束事はなんと「消毒をしないことと傷を乾かさないこと」。これさえ守ればこれまでより数段早く、どこの家庭でもきれいに、痛くなく治せる治療法なのです。しかも特別な薬品や物品は必要ありません。子供のすり傷なんて数日で治ってしまい、お年寄りの褥瘡でも同じ処置で治すことが可能なので、当院でも導入を始めた方法を今回ご紹介します。
毎日元気な子供たち。膝小僧をすりむいた、なんてことは日常茶飯事でしょう。まず、出血している場合は傷口を直接押さえて圧迫止血。決して心臓に近いところを縛ってはいけません。出血していなければとりあえず傷周囲の汚れやドロも砂ぼこりも湿らせたガーゼなどで拭いて落とし、できればきれいに水道水で洗い流します。傷口の中に砂や泥が入っていなければ、傷の中は無理に洗わなくてもよいです。汚れている傷であっても消毒は厳禁です。これだけですいぶんキズの治りが違うのです。
家庭の救急箱によくある消毒薬(マキロン・イソジン・オキシドールなど)は不要です。実は消毒するとかえって治るのが遅くなり、痕が残ってしまいます。きれいにキズを洗い流せば、体に害のあるばい菌はいなくなりますから心配はいりません。消毒すると痛い上にしみます。この「しみる」ということは、キズ口を広げているようなものなのです。キズは出来た瞬間から自分で治そうと働き、それで傷口がジクジクしてきますが、この黄色いシルみたいなものには、実はキズを治す成分がたくさん含まれているのです。キズを消毒したり乾かしたりすると、キズを治そうとがんばっている細胞が死んでしまうのです。だからキズを乾かしたり、消毒したりしてはいけないのです。
食品用ラップを活用
さて、洗ったあとはキズを何で覆えばいいでしょうか? なんとこれ、食品用のラップで覆うだけでよいのです。ラップを傷よりやや大きめに切り、ワセリンがあったらそれをラップに塗り、ワセリンの付いた面を傷に当てるのです。ラップだけでもいいですが、ワセリンを塗ってからあてた方が痛みがすぐになくなります。ワセリンは薬局で安価で買えます。オロナインのような消毒液の入った軟膏は塗らないでください。ラップはぐるぐる巻きにしてもいいし、四隅をビニールテープで浸出液が漏れ出る程度で固定してもいいです。
さらにその上に傷が浅かったら、その上を直接包帯で巻きます。傷が深そうだったら浸出液が多いので、それを吸い取るためにガーゼかタオルをあて、その上から包帯をしましょう。これを暑い時期では1日に2回以上取り替えてください。寒い時期では1日に1回の交換でよいでしょう。取り替えないとアセモができます。「ぬるぬるして気持ち悪くなったら交換」という程度でよいでしょう。取り替える際には創周囲の皮膚を十分に洗って、汗や垢やワセリンをきれいに落とすということです。痛くなければ、入浴は可能です。痛かったらシャワーで適当に流す程度でいいでしょう。洗う際は、創周囲の皮膚の汚れを落としたほうが気持ちいいので、石鹸をつけてもよいです。ただし、創面にこれらが付いたら十分に洗い流しましょう。
こうすればすりキズなんて数日で治ってしまいます。最初は臭いがするし、ドロドロするので心配される事が多いでしょうが、傷が赤くなったり熱を持っていなければ大丈夫です。それでも心配なら、まだこの方法を知らないお医者さんの場合はびっくりされるでしょうから、太子道診療所を受診してください。最近ではバンドエイドADなど、この考え方の絆創膏も市販されはじめましたのでこれを使ってもよいでしょう。なお、当院では患者さんの状況に応じて同じ考え方ではありますが、ラップではない医薬品を使って治療しています。
ちなみに、寝たきりなどのお年寄りの方にできる「床ずれ」も、圧迫されてお尻にできやすいというだけで、キズとしてはまったく同じ考え方で治療できます。もちろん消毒液や高価な薬は必要ありません。すなわち、水道水で洗浄して、ラップをあて、シルの多いときには紙おむつなどをあてて吸い取るのです。もっとも、再発予防のためにエアマットなどの介護用品のレンタルは検討が必要ですが。
これからは「傷は洗ってラップをあてる」という治療は大手を振ってできるようになるはずです。ちなみに、ここでのお話、すべて夏井先生という方の完全な受け売りなのです。もっと詳しく知りたいという方は以下のHPをご覧ください。眼からうろこが落ちますよ。
参考 「新しい創傷治療」
http://www.wound-treatment.jp/