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京都民医連中央病院報

病院報 2015年秋号 Vol.49

糖尿病の新しい薬物治療

京都民医連太子道診療所
内科 川島 淳子

昔も今も、2型糖尿病の基本的な治療は、食事療法、運動ですが、ここ20年程の間に、使う飲み薬は、1種類(群)からなんと7種類(群)に増えました。また注射薬も、インスリンの種類の増加に加え、インスリンではない注射薬(GLP1製剤)も登場しています。今回は、その中で内服薬についての紹介をします。ただ、2型糖尿病は3│4㎏痩せれば劇的改善!という人も多い病気ですから、薬が必ずしも必要とは限りません。実際の自分の病気(2型糖尿病)の治療については主治医とよく相談して下さい。また薬の話という関係上カタカナでの専門単語もたくさん入ってきますがご容赦下さい。

注:※ほとんどの糖尿病患者さまはこの2型糖尿病です。2型糖尿病と違う、1型糖尿病とは、発症した時からインスリンが必要で、インスリン注射をしないと生命の危険があるという病気ですので、今回の薬の話は基本あてはまりませんのでご注意を。

糖尿病の飲み薬

歴史は比較的浅く、1950年代に①スルフォニルウレア(SU)薬、②ビグアナイド(BG)薬が使われだしたのが最初です。その約40年後の1993年に3番目の③αグルコシダーゼ阻害薬が発売されました。それからさらに6年後の1999年に④チアゾリジン(TDZ)薬、⑤グリニド薬が使われるようになり、6番目が2009年発売の⑥DPP4阻害薬、最後が昨年2014年発売になった⑦SGLT2阻害薬です。40年ほどの間、ほとんど①のSU薬しか使われてこなかったのですが、1990年初めごろより上記のように様々な薬が発売され、治療薬も患者さま毎に最適なものを選択する時代となりました。今回は「新しい薬の話」のはずですが、昔からの薬も大きな重要性を持って使われていますので、出てきた順に説明していきます。

 

① スルフォニルウレア(SU)薬  「比較的長時間作用型インスリン分泌薬」

代表薬/商品名 アマリール、グリメピリド

1950年代に発売されてから最近まで50年以上の長期にわたり2型糖尿病の治療の主役として活躍してきました。自分の体からのインスリン分泌を増やすことで血糖を下げる薬です。非肥満でインスリン分泌が低下傾向の人がいい適応です。やや太りやすいこと、また副作用である低血糖への懸念から、最近では使用頻度がやや減っています。また使う場合でも一日使用量を少なめにすることが多くなりました。しかし血糖値を下げる効果は最強であり、また費用も安く、これからも2型糖尿病の治療にはかかせない薬です。低血糖を起こさないように上手く使っていきたい薬です。

 

② ビグアナイド(BG)薬  「インスリン抵抗性改善薬」

代表薬/商品名 メトグルコ

この薬は1950年代に使用が始まりましたが、海外で副作用への懸念から1970年代よりほとんど使われなくなり、日本でも細々としか使われてきませんでした。しかし1990年代に入り有効性と安全性への再評価が高まり、以降たくさんの患者さまに使われるようになりました。そういう歴史から「古いけど新しい薬」です。体の組織でのインスリンの働きを改善します。欧米では2型糖尿病薬物治療の第一選択薬として使われています。低血糖の恐れがなく体重も増やしませんし安価です。肥満傾向の2型糖尿病の方には第一選択薬といえます。ただ、腎機能低下がある方には使えませんし、高齢の方の使用には慎重さが求められる薬です。日本では原則75歳以上の方では新規投薬開始はしないということになっています。

 

③ αグルコシダーゼ阻害薬  「小腸での糖質消化阻害薬(ブドウ糖吸収遅延薬)」

代表薬/商品名 ベイスン、ボグリボース、セイブル

1993年に発売されたこの薬は、小腸での糖質の消化吸収を遅らせることにより食後の血糖上昇を抑えます。毎食前ごとに服用する必要があるのと、おならが増えたりする副作用があり使いにくい面もありますが、低血糖は起こしません。比較的効果は弱いので、他の薬と併用されることが多い薬です。

 

④ チアゾリジン(TDZ)薬  「インスリン抵抗性改善薬」

代表薬/商品名 アクトス、ピオグリタゾン

1999年に発売されたこの薬は、②のBG薬とは違った作用でインスリンの働きを改善します。肥満でインスリン分泌はあるけれどインスリンの効きが悪い人がいい適応です。副作用として、太りやすい、むくみやすいといったことがあり、使う際には十分な減塩とカロリー厳守が必要です。劇的によくなる人もあり、2型糖尿病治療薬の一つとして活躍していくと思われます。

 

⑤ グリニド薬  「速効短時間作用型インスリン分泌薬」

代表薬/商品名 スターシス、シュアポスト

1999年に発売された薬です。同じインスリン分泌薬である①のSU薬が一日中まんべんなく血糖値を下げるのに対して、この薬は食直前に服用することでその食後だけインスリン分泌を高め血糖を下げます。食後の血糖を下げられるという利点で2型糖尿病治療の一翼を担っています。忘れないように食直前に飲むことが必要です。

 

⑥ DPP4阻害薬  「インクレチン分解阻害作用によるインスリン分泌促進補助薬」

代表薬/商品名 ジャヌビア、トラゼンタ

2009年に発売開始された薬で、2型糖尿病薬物治療の新しい主役ともいうべき位置を占めるようになりました。「糖尿病の新しい薬物治療」の筆頭といえます。発売以来、同系統の薬が7種類発売され、どんどん使用する人が増え、現在2型糖尿病を治療中の人の半分が使っているといわれます。作用は、人が食事をとるとインクレチンというホルモンが消化管から分泌され、それが膵臓に働いてインスリン分泌を促進するのですが、そのインクレチンが分解されるのを阻害してインクレチン濃度を高めインスリン分泌を増やすというのがこの薬です。①のSU薬と違い、低血糖が起こらない、体重が増えないという利点があります。非肥満のインスリン分泌が低下傾向の方がいい適応です。特に高齢の方には低血糖を起こす危険がなく有難い薬です。欠点は、古い薬に比べ薬価が高いことで、3割負担の方では1 か月1500│2000円の負担になります。また、服薬を始めて、血糖が改善したあと油断されるせいでしょうか、3割くらいの方で再悪化を認めます。やはり食事療法はどんな薬を使っても欠かせないようです。また、①SU剤や②BG剤と比べると歴史が浅く、今後長期的使用での副作用など慎重に見守っていく必要があります。

 

⑦ SGLT2阻害薬  「尿へのブドウ糖排泄増加剤(正確には腎臓でのブドウ糖再吸収阻害剤)」

2014年に発売された薬です。腎臓に働いて、SGLT2というブドウ糖を体に残す働きをする酵素を阻害して、尿にブドウ糖をたくさん出させることで血糖を下げるという薬です。比較的若く肥満傾向の方が適応となります。副作用として脱水を引き起こしやすい、尿路感染症、皮疹などがあります。長所としては体重減少があげられます。薬の性質上、痩せ気味の方や高齢の方には使用がすすめられない薬で、ぼつぼつと適応例に使われているといったところでしょうか。なにぶん歴史がまだ1年しかありませんので、今後評価が定まっていく途上といえる薬です。


以上、2型糖尿病の薬の話を書きました。「新しい薬」=「新しい治療」ではなく、新しい薬がでてきたことで、それぞれの患者さまに合わせた治療ができるようになったということが「糖尿病の新しい薬物治療」ということができます。

 

 

お問い合せ

京都民医連太子道診療所 電話:075-822-2660

太子道診療所では、「みどり会」という糖尿病の患者会があります。入会していただくと(年会費2,400円)、全国糖尿病協会が発行する糖尿病の雑誌「さかえ」が毎月読めます。今回書いたような薬の記事をはじめ糖尿病に関するいろいろな情報が載っていますので是非入会と購読をお勧めします。ご希望の方は京都民医連太子道診療所・内科事務または看護師までお申し込み下さい。

 

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