ホーム > 当院について > 病院報 > 病院報 2013年特集号 > 災害医療とまちづくりを考える~地域医療からの発信~
尾崎信之(中京西部医師会会長(当時)
実は私の同級生が、神戸で開業して震災に遭い ました。彼はお父さんの外科の医院を継承し、そ のときに診療所を鉄骨3階建てに変えたそうです。 すると、あの阪神・淡路大震災の朝、突然、本当 に下からベッドが天井に突き上げられるような、 激しい縦揺れを感じたそうです。びっくりしてい ると今度はドスンと落ち、横揺れとなり、家が潰 れると思った寸前で助かったそうです。すぐに窓 の外を見たら、今まで見えていた家が全部なくて、 どこへ行ったのかと思ったら、つぶれて下の方に 屋根がある。びっくりして「助けに行かなあかん」 と、一生懸命に這い出て、なかなか自分の家でも すぐに階下には行けなかった。診療所を開けたと ころで夜が明けたのですね。ところが、開けた途 端に、頭に怪我をした子どもを連れたお母さんな どが「先生、すぐに治してくれ」とたくさん来ら れたそうです。助けに行くよりも、たくさん入っ てこられた。それで、なんとかして診療道具を一 生懸命に集めてきて、次から次へ診て、縫って、 縫って、縫いまくった。1日中縫いまくった。ほ とんど食べずにがんばった。そして、夕方になる と、突然、人が来なくなったそうです。非常に暗 くなって、シーンとしている一晩を過ごし、非常 に不気味だったそうです。なんとか自力で食事を して、次の日もまた明るくなると、また「母さん を診てください」と患者さんが来られる。こうし て、なんとかがんばってやったのだと聞きました。
このことを聞き、「これをやろう」と、今、我々 は一生懸命にがんばっているところです。図表4 「発災直後の医療資源」を見て下さい。先ほどの 友人は診療所の機能が残存し、医者もがんばって いたケースになります。ところが、診療所のなか には診療所は機能しないが医者はいる、あるいは、 地元の小さな病院の一部の機能がやられてしまう こともある。また機能も医者も全部がしっかりし ている基幹病院、こういうところには患者さんも 来られるでしょうし、我々からも患者を送るだろ うということになるわけですね。これが10時間な いし24時間は続くだろう。もし、診療所はダメで も、開業医の先生が大丈夫だったら、マンパワー として地元の病院に行くことにしましょう。もし、 診療所がそのまま残り、しかも医者も大丈夫だっ たら、そこでがんばって、来られる被災者の方た ちを助けてくださいと、それぞれの力を積み上げ ていこうということです。そして、それぞれが基 幹病院と連絡を取っていくというモデルを考えて います。ここに、地域の医師会である我々の存在 意義があるのではないかと考えております。
また京都府医師会が「JMAT 京都」構想を考え ていて、これはかなりできております。日本医師 会は今後、各都道府県単位でのJMAT 組織を構築 することを提案しており、JMAT 京都は「京都府 で起こった場合は、近くからすぐに来ますから、 がんばってください」ということです。
この近辺では京都市立病院が災害拠点病院に指 定されております。3月2日に内覧会、3月11日 から稼動しておりますが、7階建ての新館ができ ました。免震構造で、屋上には非常に立派なヘリ ポートがあり、実際にこの目で見てきました。周 囲を見渡せる、いくらでもヘリコプターが来られ るような立派な新館ができました。手すりがなか ったので非常に怖かったですが、とにかく立派な ヘリポートです。皆さん、どうぞ安心してくださ い。
図表4 発災直後の医療資源
もう一つ、情報は非常に大事なものではないか と考えています。阪神・淡路大震災のときには、 本当に苦労したのです。資料にある「中京西部医 師会緊急連絡網」、この連絡網がズタズタになっ てしまうと情報が入ってこないし、またデマなど が飛んでくるとたいへんなことになります。なん としてもこの情報網だけはきっちりしようと、毎 年、更新しています。
府医師会と中京西部医師会は必ず連絡を取り、 中京西部医師会と班長が連絡を取ります。我々の 医師会は小学校区で9班に分かれており、今日の 会場周辺は朱四・朱八班になっています。この班 長と医師会とは必ず連絡を密に取り、班の中にお られるA会員の先生方とは必ず密接に連絡を取る ようにしています。ただし、個人と個人とでこう いうことをあまりしないように、なるべく班の中 で集まり、班長同士、それから医師会、それから 府医師会とで、お互いにデータを共有しようとし ています。誤った情報が入ってくると非常に困る ので、これをきちんとしたルートで共有していき ましょうということです。
手段としては、先ほど言いました固定電話、携 帯電話、それからメールも活用し、最終的には衛 星通信もやりましょうとなっています。ただし、 この衛星通信は京都府医師会などもやっているの ですが、重要なものから順番が与えられるので、 我々はいちばん最後の方になると思います。意外 に使えるのは、実はアマチュア無線です。本当に 堅実に役に立ちます。私事ですが、昭和37年、中 学校3年生の時に免許を取りまして、JA コール を持っております。去年、更新いたしました。そ して京都府医師会は伝統的にアマチュア無線が盛 んですので、最終的には、ハンディトランシーバ ーでやっていこうとも考えております。とにかく、 この情報網だけはきっちりしていきたいと思って おります。
口先の計画だけではなく、実際に防災訓練を始 めました。我々だけではなく、行政、業者、それ から京都市民と、本当にいろいろな人たちと協力 し、去年は11月18日に朱雀第七小学校のグラウン ドを借りて、中京区総合防災訓練をやりました。 こうして、いつ来るかは分かりませんが、その日 に備えています。
最後に、京都新聞の記事ですが、災害時のため にカルテを病院間で共有し、相互バックアップを して、もし患者さんが自分の持っているお薬手帳 や保険証などをなくされても、これでなんとかし ていこうという取り組みのご紹介です。これは完 全に私個人の意見ですが、個人情報さえ保護され れば、これは非常に良いことだと思うのです。こ れの小型版、中京西部医師会で各診療所の院長が 年に1回ずつ、自分でバックアップしておく。そ して、CD−ROM やUSB などのメディアに保存し、 いざとなったらそれを持って移動する。例えば自 分の診療所がやられたら、他の診療所などに行き、 メディアを挿せば患者さんの名前と病名と薬など がきっちり保存されている、こういうことを考え ております。そのための第一は、診療所の完全デ ジタル化が必要ですし、先生方といろいろと検討 していきたいと思います。
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