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京都民医連中央病院報

 

くらしからの発信

吉永純(花園大学教授)

日頃の備え、社会保障を知る

これまでのお三方のお話は災害をかなり意識し た内容だったと思うのですが、私の話は若干、趣 が違うかもしれません。災害に対しては、日頃の 備えという意味での社会保障が本当にしっかりし ているのかということと、災害時特有の社会保障 的な対応、例えば医療費を無料にするなどの対応 と、その二つがあると思います。私自身は岩手に 3回ほど調査などで行かせてもらい、いろんなこ とを感じましたが、今日は、主には日頃の備えで ある社会保障が、今、どうなっているのかを中心 に、お話をしたいと思います。

先ほど鳥越さんのお話があり、がんで4回も手 術を受けられたというご体験 を話されました。しかし安心 して4回も手術を受けるのは、 お金のことなどを考えたら、 実はわりとたいへんだと思う のです。本当に安心して手術 を受けられることがみんなに 保障されているのかを考えるうえで、貧困という 私の研究領域を中心に、今の日本がどうなってい るのかということを、お話しさせていただきたい と思います。

まず図表6「貧困率の年次推移」ですが、これ は政府が2011年に発表したものです。平成21 (2009)年の調査なのですが、相対的貧困率が 16.0%とは、日本には貧困な人が16%いるという 意味です。これは6人に1人が貧困な人というこ とです。この会場は500人が入りますので、数の 話だけで言えば、この会場で80人ぐらいは貧困だ ということなのです。資料に戻ると、子どものい る家庭の貧困は15.7%で、今、子どもの貧困が非 常に問題になっています。ここは平成18(2006) 年の前回調査と比べ、1.5%も増えているのです。 そしてひとり親の家庭の貧困は50.8%と半数を超 えています。ひとり親では2世帯に1世帯以上が 貧困ということです。これが主な数字です。


図表6 貧困率の年次推移

この貧困率16.0%というのは、世界でも有数の 貧困国であることを示しています。OECD30ヵ国 の中で、日本より貧困なのは、メキシコとトルコ、 それからアメリカです。その次に日本が来て、当 時の人口換算では2040万人が貧困であったことに なります。日本は世界でもトップクラスの貧困率 だというのを、まず、知っていただきたいと思い ます。

それでは、お金で言えばどれくらい貧困かと言 うと、図表7「等価可処分所得金額別にみた世帯 員数の累積度数分布」を見て下さい。大金持ちの 人、ユニクロの柳井さんや孫正義さんなどは、グ ラフのずっと右上トップになります。ちょうど真 ん中の人の値を中央値と言いますが、一人暮らし の人に換算して、税金などを抜いて224万円、こ れが日本の標準的な年収です。月収では、18万6000 円です。もちろんこれは中央なので、この人の半 分である112万円、月収9万3000円未満の人が貧 困とされる人です。実感としてはびっくりされる かもしれませんが、国が示した貧困率はこのよう に厳しい実態を示しています。


図表7 等価可処分所得金額別にみた世帯員数の累積度数分布

「生活保護=最多」の意味

生活保護を受けている人は、平成7(1995)年 には88万人でしたが、昨年に過去最高を更新し、 今はもう215万人ぐらいまでに増えています。受 ける人が増えるのが悪いというような報道がたく さんありますけれども、そうではなく、これは貧 困が広がっている結果なのです。好きで生活保護 を受けている人は、ほとんどおりません。様々な 葛藤の末、やむなく福祉事務所に来る方が大半で す。「不正が多い」「役所の調査がずさん」等々の 言説が広まっていますが、それはマスコミが作っ た虚像だと、私自身は思っています。

ところで、先ほど、2009年の貧困率が16%、人 数では2040万人と言いましたが、その当時、2009 年の保護率は1.38%でした。2040万人のうち176 万人しか、生活保護を利用されていない。このギ ャップに注目していただきたいのです。「生活保 護を受ける人が増えた」と問題視されていますけ れども、実は日本で貧困だとされている人のうち、 1割も生活保護を受けていないのが現状です。こ れは、生活保護を受けるには貯金を持っていたら ダメ、自動車を持っていたらダメ、あるいは大学 生だったらダメなどと、ダメの連続だからです。 「いったん人間を丸裸にして、薄い服を1枚ずつ 着せてあげるというのが、生活保護という制度だ」 と、ある有名な研究者が言われましたが、本当に 制度の本質をよく示した言葉だと感じます。

それでは、どんな人が生活保護を受けられるの かというと、失業者、ひとり親世帯、病気になら れた場合、高齢者で年金が少ない場合、残念なが ら若者も今は増えています。

 

 


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