
四方 典裕
救急科科長 四方 典裕
心臓は一生涯休むことなく働き続けており、1日に約10万回、1年で4000万回収縮と拡張を繰り返しています。そこから送り出される血液は1分間に約5リットル、1日で7000リットルにもなります。このように心臓は人間が生きていく上で非常に大切な臓器ですが、日々の不適切な食事や生活習慣が心臓に大きな悪影響を及ぼしています。その中の代表的な心臓病に虚血性心疾患という名で総称される狭心症や心筋梗塞があります。心臓に血液を供給する冠動脈が動脈硬化によって狭窄し、心筋に十分な血液が送られなくなるために起こります。このような冠動脈の動脈硬化には高血圧や脂質異常、糖尿病、肥満、喫煙などが深く関わっています。
まずこうした原因となる病気をもっている場合は十分にその治療をすることが狭心症発病の予防につながるわけですが、不幸にも狭心症に進行してしまった場合は、早期に発見して、さらに悪化しない対応策をとることが重要です。
早く気づくためには狭心症の症状に関して知る必要があります。胸痛を訴える方が多く、その部位は胸の中央からみぞおちにかけての比較的広い範囲です。「息が詰まるような」「しめつけられるような」「圧迫されるような」痛みを感じます。体の表面にチクチクやズキンズキンと痛みを感じるものではなく、体の深いところから現れるような感じがします。発作の持続時間は比較的短く、数十秒から数分間程度がほとんどです。強い胸痛が30分以上続く場合は心筋梗塞を疑う必要があります。
こうした症状が出た場合はすぐに病院を受診してください。夜中であっても決して朝まで我慢してはいけません。病院では猶予があればまず患者さんからお話を聞き、痛くなった経過や程度、その変化、場所などを調べていきます。これを問診といいますが、何よりも重要な情報です。続いて聴診など診察を行ない、心電図などの簡便に出来る検査を行います。こうした診察や簡易検査などから狭心症が濃厚に疑われた場合はさらなる検査を行ないます。その代表的なものに心臓超音波検査(心エコー図検査)があります。
エコー図
心エコー図検査は超音波を利用して心臓の動きをリアルタイムに見ることにより、心臓病の多くの情報を得ることのできるすばらしい検査方法です。何よりも基本的に苦痛を生じることなく、放射線被爆のように体への影響を心配する必要もないため、何度も、またどこでも出来る点が優れています。
現在は心エコー機械の進歩により冠動脈の血流を検出することも可能になりました。当院では通常の心エコー図検査でも基本的に検出を行なうようにしています。また運動時のみに症状がある患者さんは、安静時の症状がない時に心エコー図検査を行なっても全く正常にみえることが多いです。このため心電図を装着しながらエルゴメーターという自転車に乗っていただいて運動した直後に心エコー図検査を行なう運動負荷心エコー検査を行なっています。運動時の心電図の変化のみを評価するトレッドミル検査に比べて検査の精度は高い結果が出ています。しかしながら超音波は冠動脈そのものをはっきり描出するものではありませんので、どうしても一部の方には入院による心臓カテーテル検査までしないと詳細がわからないことがありました。しかしここ数年でCT検査のめざましい進歩により、外来でも心臓カテーテル検査に匹敵するくらいの情報が得られるようになってきました。
今まで心臓は動く臓器であるため、なかなか冠動脈のきれいな画像を得ることができなかったのですが、CTの性能の向上や心拍数を薬により調整することなどにより、冠動脈の描出がきれいに行なえるようになりました。当院でも昨年7月に64列マルチスライスCTが導入され、診療放射線技師とともにさらなる画像の精度向上を目指して日々取り組んでいるところです。放射線被爆の問題とカルシウム沈着が多い時の検査精度低下の問題はやむをえない点ではありますが、従来の入院をして行なう心臓カテーテル検査に比べると患者さんの負担は様々な面ではるかに軽減されると思います。狭心症を疑う症状や気になる症状があれば気軽にご相談いただければ幸いです。
冠動脈CTの画像
当院では狭心症などの心臓病の診断や治療に関しては大阪市立大学や京都大学のスタッフとカンファレンスを行なったり、また連携を取りながら検査や治療の質が向上するように努力を行なっております。今後ともどうぞよろしくお願いします。