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第五十七回 倫理委員会 議事録

京都民医連中央病院

日時 2014年6月5日(木)18:30~21:20
場所

京都民医連中央病院西館1階第一・二会議室

出席者

外部委員 小原克博委員長、原昌平副委員長、一家綱邦委員、勝村久司委員、関谷直人委員、広瀬東栄子委員

内部委員 川島市郎副委員長、井上賀元委員、冨田豊委員、東正一郎委員、平田恵美委員

事務局 根石明彦、丸山俊太郎

オブザーバー 勘解由真美、川原初恵、齋田孝彦、名嘉山一郎、ファム・グェン・クィー

欠席

岩橋多恵委員、富永愛委員、内田寛委員

議事

 

議事(1)「委員の変更」

小原 ただ今から第57回倫理委員会を開催させていただきます。お手元にある議事に従って順番通りに進めていきたいと思います。議題がたくさんあり、全部を消化しようとすると、いつ終わるのか分からなくなりますが、今日にやっておきたい案件と、先送りしても良い案件がありますので、少なくとも(5)までは終了予定の9時までに終わらせたいと思います。また、時間の都合で今日に扱いきれない案件も出てくることを予めご了承下さい。
まず「(1)委員の変更について」で、冨田委員と位田委員についてですが、冨田委員は外部委員から内部委員への移行、位田委員はご本人の希望による辞任ですね。冨田委員については何かご説明はありますか。

根石 冨田委員につきましては一時、別の院所へ移られて内部委員から外部委員へ変更いたしましたが、6月にまた当院へ戻ってこられ、引き続き委員を引き受けていただいたので、内部委員への再変更をお願いします。

小原 分かりました。6月から再びこちらで勤務されるということで、内部委員へのステータスの変更をお認め下さい。宜しいでしょうか。位田先生については、現在は同志社大学の同僚でもありますので、私も事前にご事情をお伺いしています。京都大学を退職されていろんな役職も整理されているとはいえ、まだまだお忙しい方で、残念ながらこの倫理委員会も辞したいというご希望をお聞きしました。これ以上、無理を申しあげることもできませんし、位田先生が関わって下さって非常に大きなことを学ぶことができたと思いますので、感謝して辞任の申し出を受けさせていただきましたので、ご理解・ご承認を宜しくお願いいたします。

一家 宜しいですか。後で委員会の規定の時に申しあげようとも思ったのですが、冨田先生が外部委員になられた時に、外部委員の構成の内のどの立場になられるのですかとお伺いしたところ、確か「医療に関する倫理の専門とする者」ということでしたが、冨田先生が移動され、それ以外の外部委員でこの専門にいちばん近いと思われる位田先生も辞められるということは、今の委員会には「医療に関する倫理の専門とする者」がいないということになりますので、早急にこの委員の選考をしていただく必要があるのではないかと思います。

 

議事(2)「第56回倫理委員会議事録について」

小原 ご指摘ありがとうございました。委員会規定は今回も改定の案件として挙げていますけれども、今、ご指摘のあったことも踏まえて整えていく必要かあると思いますから、位田先生に並ぶ方を近辺で見つけることは至難の業ではありますが、近い学識を持った方をできればお呼びしたいと考えています。では、(1)につきましてはご承認いただいたものとして進めさせていただきます。
(2)の「倫理委員会議事録」につきましては資料1、あるいは既にメールで回覧させていただいていますが、ご確認いただきまして、もし不具合等がありましたら事務局の方にお知らせ下さい。宜しいでしょうか。
それでは「(3)事例検討」に入ります。事例検討はファム・グェン・クィー医師からご説明をいただきますので、資料Aをご参照いただきながら、お聞きいただければと思います。では、ご説明を宜しくお願いします。

 

議事(3)「事例検討」

※事例1例検討しました。

 

小原 では次は、「(4)家族性腫瘍関連遺伝子検査について」ということで、資料Bの1、2をお手元においていただきながら、まずご説明を聞いていただければと思います。では、宜しくお願いいたします。

 

議事(4)「家族性腫瘍関連遺伝子検査について」

名嘉山 京都民医連中央病院の乳腺外科の名嘉山と申します。宜しくお願いします。実は京都府医師会で「健康便りBeWell」というのが定期的に発行されているのですが、その中で大っぴらに「BRCAについて」という記事が掲載されるような時代になってきたということもあり、遺伝子診断が実際の乳癌治療、ひいては婦人科の卵巣癌の治療にも大きく関わる問題になってきますので、まず入り口として、当院でも遺伝子検査が可能にならないかということで、こちらの委員会でご検討いただきたいと思い、提示させていただきました。
実際の手順とかを詳細に書いているのが「診療実施計画書」で、「HBOC」というのは遺伝性乳癌・卵巣癌症候群という病気で、BRCAの1と2という2種類の遺伝子があるのですけど、その遺伝子の異常で発症する遺伝性の乳癌・卵巣癌のことです。この2つの遺伝子に異常があると最大限、乳癌の場合は生涯に80%、卵巣癌の場合は約60%の方が発症すると言われています。遺伝性乳癌が有名になったのは、ハリウッド女優のアンジェリーナジョリーさんという方のこれが陽性で、予防的に対側の乳房も切除する手術を受けられたことで、全世界に知れ渡ることになりました。日本では設備的にこういう検査を行っているところがなかなかなく、我々も2011年の家族性腫瘍セミナーに参加した時に初めて、これについて勉強させていただいたぐらいです。アメリカではミリアド社が独占的にやっていたのですけども、そのデータを基にして、まずは可能性のある人の拾い上げ、それから遺伝子検査を受けるかどうかということと、その後のカウンセリングが一連の流れとなっています。
拾い上げというのは、P3の「診療実施方法」に書いていますが、当院では乳腺外来とか婦人科外来の方で、卵巣癌や乳癌などの患者さんの中で、次ページにある「拾い上げ」の基準に照らし合わせて、疑いのある患者さんについては遺伝カウンセリングという形の外来を、まだ正式には時期を決めていないのですけども、それを設置したところへ紹介して、病歴・家族歴などを聞いて家系図のようなものも作成しますが、どこまで可能性があるのかを追及しなくてはいけませんので、かなり立ち入った情報に接触しなければいけないという問題があります。その上で当院外来のようなところで、外部委託になりますけれども、BRCA1/2の遺伝子に異常があるかどうかの検査を受けていただき、結果をお知らせする。行わなかった場合も、サーベーランスと言いますか、高率に発症する方々が多いので、それぞれに適したフォローアップの方法を紹介して、外来ベースで診ていくというのが、大まかな中身です。
実臨床では、我々も5家系ぐらい、可能性のあるご家族があって、実際、3人ぐらいの方にはお勧めし、お2方は若年で「ぜひに」と言ったのですが、経済的な理由でお断りになられたのと、もう1方は「自分以外に身内はいないので、分かったところで意味はないだろう」と断れたのですけども、後の2方は「そういう検査があるのだったらどうしよう」と迷っておられます。
で、実際問題としてこの遺伝子の異常があった時には、手術の時にも部分的に取るのではなくて、残っている乳房にもかなりの率で発症するということがありますので、「最初から全部を取りませんか」という話をしたりとか、「対側のところを予防的に取りませんか」とか、あと、卵巣癌の可能性も出てくるのですけれども、婦人科の先生にお尋ねすると、卵巣癌の場合は半年に1回、MRIを撮って腫瘍マーカーをフォローアップしても、その間でも発症する時は発症するので、なかなか拾い上げが困難なので、予防的に卵巣・卵管摘出を行うことは、国内でも倫理委員会で協議した上で、適用がある患者さんには勧めるということが、現に行われていたりします。そういうことを考えても、「その前段となる遺伝子の検査について、こちらの方で可能になれば」というふうに思いまして、提案させていただいたということです。

小原 概要については今のご説明された通りですが、将来的にはこちらでもそれを導入して、対象となった癌患者さんに対しては予防的な処置を勧められるようにしたいということですね。

名嘉山 そうです。その際は倫理委員会の先生方とのご相談の上で…、はい。

小原 これは現在、日本の病院ではどれぐらい行われているのですか。

名嘉山 実際、京都市内では2大学だけですし、関西圏でもいちばん多くやっているのは北野病院で、かなり大きな外野を持っていらっしゃいますけど、どこもまだ手を着け始めたところで、実数は掴んでいないのですけども、元々、中心になっているのは聖路加国際病院で、ここから広がっていったのですけども、今は昭和大学に移られた中村先生がトップに立って、日本のHBOCコンソーシアムという組織を作られて、普及に努めているところです。5月にあった日本外科学会の乳癌セッションでも、「ウチも始めました」というポスター発表がポツポツ出ているという状況で、検査を始めていても試行錯誤のところが多いと思うのですけども、臨床上はエビデンスの上でも「全部取るのかどうかをお勧めするのか」「対策も含めてどうするのか」「卵巣のことをどうするのか」ということがかなり深刻な問題になってきますので、それを知らずに、普通の温存手術をするとか、卵巣癌についてのサーベイランスを怠っているとかがあると、「折角、手術したのに何でこんなことに」という結果を招くことになると思いますので、そういう意味では必要な検査ではないかなと思っています。

小原 この検査と治療に関しては、直接に関係する学会は日本産科婦人科学会ですか。

名嘉山 …ではないです。日本乳癌学会は独自の乳癌指導ガイドラインを作っているのですけども、その中でも遺伝性乳癌の項目があって、こちらにはNCCNの拾い上げのガイドラインがありますけども、P3の「拾い上げ」と、P9〜10、それからP12に渡るところのフォローアップの方法は、実際に乳癌学会のガイドラインに基づいて作成しているものです。患者さんの為のガイドラインにも、同じように遺伝性乳癌の項目が割かれていて、HBOCの検査が受けられるところをホームページで紹介したりしています。

小原 先ほどの5家族の中の1方が、経済的理由でご辞退されたということですが、具体的に検査にどれぐらいの費用が掛かるのですか。

名嘉山 発端者という最初の人の遺伝子異常を検査する場合は、1染色体の全部を診る必要があるので、施設との契約の為に言い値が違いますが、いちばん安いところで24万円ぐらい、高いところでは30万円ぐらいになるそうです。で、発端者の方に遺伝子異常が見つかれば、後の方はそこを調べるだけなので、発端者以外の疑いのある方は約6万円ですが、姉妹が3人ともなれば高い話になりますので、二の足を踏まれている状況でした。

小原 だいぶ全体像が見えてきました。どうぞ皆さん、自由に質問をして下さい。

一家 ちょっと確認をさせてください。資料B1は、P1からの医師用の説明書、P17からの発端者向け検査用説明書、P28からの血縁者向けの説明書と、3種類の説明書がありますが、これらはこちらの病院の先生が作られたものなんですか。それとも、何かもっと一般的なものですか。

名嘉山 実際のところ、日本でのミリアド社の下請けがファルコという検査会社で、そこから資料を取り寄せて、他院で実際に使われているものを流用して、こちら向けにアレンジして作ったのがこの資料です。

一家 では、将来的にこちらの病院でやる場合は、これに沿ってやるという趣旨なんですね。

名嘉山 はい、そうです。

一家 すみません、今、我々が検討するのは、これから始めることの承認なり、意見が求められているのか、もっと一般的に「この検査についてどう思いますか」と聞かれているのか、どちらですか。

名嘉山 前者になります。それと、こういった検査を進めるにあたって「倫理上の問題がこういうところにあるので、こういうことに注意して行いなさい」というようなご指摘があれば、ぜひ伺いたいということです。

一家 私はこれに関して詳しく知らないので、NCCNのガイドラインをぜひ見たいのですが、それはどこを見たら良いのですか。

名嘉山 今直ぐに用意はできますが…。

一家 皆さん、それがあると議論できますか。

小原 それはパッと読めるようなものではなく、かなりタフなものですよね。

名嘉山 NCCNのガイドラインというのは、「こういう人がハイリスクの人なので、こういう人を拾い上げしなさい。で、そういう方にはカウンセリングを行いながら、検査を勧めなさい」というような流れなんです。

小原 今、持って来ていただいても、それを基に議論するのはちょっと難しいので、後日にそれをご覧…、

一家 ですから、今日に承認というのでなければ、それでも良いですが…、

小原 今日に承認ということではないですよね。

名嘉山 …ではないです。

小原 ですから、今後の資料として準備いただくということで…。関連の学会とか、国際的にも当然、ガイドラインはできていると思うのですけれども、お聞きになっている範囲で、倫理的な争点みたいなもの、例えば「こういうのは注意した方が良い」みたいな、既に議論されているようなものはございますか。

名嘉山 一つは、結果の方が判断のつかないグレーゾーンで返ってくる場合があって、「では、その30万円は検査され損じゃないか」「分からないのにどうなんだ」という結果が実際にあるのですね。それも「前もって『こういうことがありますよ』と話しておけ」と書いてあるのですけども、そういった場合、精神的にも大きな負担を強いられた上に、まだ不確実な状況に置かれ、結論としては「BRCA以外の遺伝性の乳癌の可能性もあるので、慎重にフォローアップを続けていきましょう」となると思うのですけども、そのあたりの、検査を受けられた方の大きなストレスとか、経済的な喪失感などが拭えないので、トラブルになることがあると伺いました。

小原 ただそれは、事前に説明して了解してもらっていれば、避けることのできるトラブルですね。

勝村 グレーになるのは、どんな理屈があるのですか。

名嘉山 増幅に限界があったり、採取されてもピースが少なくて数値が出ないといったことがあるそうです。

勝村 検体を採り直したらできるかも知れないという趣旨なんでしょうね。

名嘉山 そうみたいですね、はい。

井上 遺伝子検査で陽性が出た場合と、経済的な理由などで検査を受けなった場合で、例えば若年発症の乳癌とか家族も乳癌の場合とかは、先生はハイリスクだと思って、今後もフォローアップされると思いますが、フォローアップの方法に、遺伝子検査を受けた方と受けていない方に、何か違いができるかどうか、いかがですか。

名嘉山 明らかなのは、卵巣癌への目の向け方が違うということですね。卵巣癌の場合、疑いのある患者さんは3ヵ月毎にエコーと半年毎にMRIとか、婦人科の先生はかなり濃密にフォローアップをされていますが、疑っていないと抜けるかなというのが1つで、もう1つは手術の内容ですね。同側の乳房への再発のリスクがかなり高いということと、対側の方も普通の方よりかなり高率に出て、普通の方より5倍から10倍と言われていますので、フォローアップの方も、同側も対側も含めてかなり濃密にしないといけないということはあると思います。

井上 対側の乳房の切除というのは、保険適用になっているのですか。

名嘉山 なっていないです。「その場合は、まだ倫理的にどうか」ということを相談すると、問われることになると思いますが、それは多く実施している聖路加とかでも、やっぱり倫理委員会の俎上に乗せて、「どうだろうか」ということになるようです。

井上 遺伝子が陽性になってなければ、そういうことは俎上になかなか登りにくいということですね。

名嘉山 そうです。性同一性障害の方で「取って欲しい」という全く関係のない話は以前もありましたが、それ以外では、遺伝子検査のベースに立った方が、納得はし易く、その後の動きがし易いところはあると思います。

小原 一般的に遺伝子検査に関わる課題としてよくあるのが、今回の場合は発端者と言うのかな、最初の1人の結果が分かると、ご家族もだいたい同じような遺伝子を持っているのが分かりますので、他のご家族が、そもそも知らなければ良かったのに、同じ因子を持っていることが分かることによる、心理的な負担からくるところの問題というのは、何か聞いたりしたことはありますか。

名嘉山 えぇ。それは、まず最初に検査を勧める時にも「ご家族も一緒にお話をさせて下さい」とか、「ご家族と相談してきて下さい」という話を投げかけますので、実際に「姉妹で言い合いになっている人がいるので、どうしようか」というところで止まっている人もいます。

小原 ということは、お一人が単独で「私の検査をして下さい」ではなくて、やはりご家族の同意を前提としているという形なんですね。

名嘉山 そうです、はい。

小原 その場合、家族の範囲というのは、どうなるのですか。

名嘉山 三親等ぐらいが前提で、上下に円を描くようにと指導されています。

クィー よく言われるのに、知りたくない権利というのがあるのですけど、家族の中で「私は知りたくない」と言われた場合はどうするのですか。

名嘉山 その場合は、慎重なフォローアップということしかないですので、受けなかった場合、具体的には、けっこう乳房の濃い方が多いので、普通のフォローアップでは使わないMRIの推奨をガイドラインでもされていますので、MRIを使った乳房のフォローアップを勧めるとか、併せて婦人科の方もお勧めして診ていただくといったことを、「せめてこういうことだけでもしておかれたらどうでしょうか」という提案はさせていただきます。

勝村 卵巣癌の方は産婦人科がらみですよね。関係するのは乳癌学会とおっしゃっていましたけど、産婦人科学会の方からこの検査へのアプローチみたいなものはあるのですか。

名嘉山 すみません、不勉強で産婦人科学会の方は…、

勝村 卵巣癌の方からこの検査に関してというような話は基本的にはない?

名嘉山 院内で卵巣癌の方が見つかった時に、婦人科の先生から相談があったりはするのですけども…。

関谷 まだ未婚で子供を産む可能性がある方で、しかも健康な状態なのに、海外では卵巣を取るというケースというのが実際にあるのですか。

名嘉山 結局はそこまでいかないので、発症した方のいちばん若い方の年齢以上とか、一定の線を引いて施行を考えているようです。

関谷 なるほど。ただ決断としては、アンジェリーナジョリーさんだって、ああいうビジネスをしている人が胸を全部取ったのですが、健康な体の部位を切除するという判断は医療行為ではなく、明らかに遺伝的なリスクがあるということですけど、それも判断としてはグレーですよね。それは個別に判断するしかなく、場合によっては、これぐらいのことなら取ってはいけませんということもあり得るということですよね。

名嘉山 そうですね、可能性はありますね。

勝村 対側を取るのは保険適用ではないということですけど、保険適用なものもあるのですか。全部、保険適用ではないということですか。

名嘉山 乳癌という病名が付いていて、その同側の乳房を全部取るというのは問題がないと思います。

勝村 この遺伝子検査の結果だけで何らかの医療行為をする場合は、全てが保険適用外?

名嘉山 今のところはそうですね。だから、予防的に何かをするという場合は保険適用外になります。

一家 今、問題になっているのは乳癌の検査だけですか。卵巣癌の検査もここでやるということですか。

名嘉山 卵巣癌の検査もここでやりたいということです。

一家 それを一緒に考えていくのですか。

小原 提案としては別々ではなく、セットですよね。

名嘉山 対象としているのは、乳癌と卵巣癌を高率に発症する症候群の遺伝子を見つけるということです。

勝村 素人目では、20年ほど前は乳癌というだけで全部を取っていたのに、10年ぐらい前から温存療法であまり取らないようにしようと変わってきたと思うのですけど、温存療法というものの評価はどうなんですか。つまり、死亡率ではなく発症率で見たら、発症はするけど、上手く付き合って長生きできたら問題はなく、切ってしまうと生活に支障が出るということもあるかも知れないでしょう。

名嘉山 ここ数年でも大きく風潮が変わってきていて、今までインプラントでシリコンを入れるというのは美容整形のものであって、保健診療外になっていたのですけども、乳癌の術後については、保健診療に入れていきましょうということになって、昨年からは保険適用になっているのですね。大胸筋の裏に生理食塩水で少しずつ膨らませて、乳房と同じ形になるように皮膚を伸ばして、その裏にシリコンのインプラントを入れて乳房を造るのですが、この再建がかなり一般的になってきたということで、今まではできるだけ残した方が整容性が良いだろうということだったのですが、実際のところは、温存といっても8分の1以上の体積を取りますと、かなり周形を留めずに変な格好になっちゃうのですね。そういうことを考えると、脂肪を移して入れたりとか、自分の体の組織の一部分を移植したりというのは、元々保険適用とされていたので、当院ではそういうのをずっとやっているというのが最近です。海外でも、変に温存して整容性があまり良くないのであれば、全部取ってしまった上でインプラントを入れるなり、自家組織を入れるなりということで、今までは温存率が高ければ高いほど良いとされていたのに、逆に温存率が下がって全摘の率が少し上がってきているというのがこの間の動きなんですね。昔は「癌だから全部取るのは仕方がない」というのが、全摘の意味だったと思うのですね。そして、「部分的に取れば乳房の形がある程度残り、それプラス放射線療法で全部取るのと同じくらいの成績が出る」というのが分かったところで、温存療法というのが一般化したところがあるのですけども、最近はさらに、傷を見た時に「私は乳癌だったので温泉にもいけない」という精神的苦痛を受けないようにする為に、温存でもかなり大きな範囲を取った上で、人工物乃至は自分の組織を入れて元通りの姿を目指すということで、いかに元通りの姿にするかという発想から手術を組み立てるというのがメインになってきましたので、手術範囲が広ければ全部取った方が良いだろうし、「残せるのだったら残したい」という方の場合は、その部分に自家組織を入れて造り直すというような格好になっていますので、治療的な意味よりも、患者さんの術後の心のケアとか整容性を担保できるように、いろんな治療が進んできているというのが現状ですので、アンジェリーナジョリーさんが全部を取ってインプラントで再建されたというのも、そういうことが発達しているアメリカならではのことと思います。

勝村 全部取っていた時と、温存で放射線をセットした時と、予後はあまり変わらなかったということですね。

名嘉山 そうです。10年で10%の再発率です。

一家 こちらの病院には遺伝カウンセリングの専門家はいらっしゃいますか。

名嘉山 専門家はいないです。ただ、家族性腫瘍セミナーというのがかなり限定的な内容で開かれますので、その分野についてはやって良いよというお墨付きがいただけます。そのセミナーは分野毎に毎年、変わるのですけども、例えば大腸癌の関係のHNPCCの講座を受けた人は、それについての遺伝カウンセリングは行っても良いよとされるのです。自分の場合も、このBRCA関係の家族性乳癌についての家族性腫瘍セミナーに出たので、これについてのカウンセリングをしても良いと言われている状況で、今年も同じ内容でセミナーが開かれると言うことなので、もう1人にも参加してもらって、なんとか2人態勢が作れたらなと思っています。

一家 先生の資質とか考えにも左右されてしまうので、恐らく主治医以外に遺伝カウンセリングのできる人がいないと、恐らくガイドライン上では拙いのでしょうね。
すみません、私はけっこう発言していますが、この問題は男性なのでけっこう分からないところがあるのですね。乳房を切除された女性の気持ちは分からないので、女性の方の意見を伺いたいのですが。

平田 私は今まで、名嘉山先生と一緒に病棟で乳癌の患者さんと接する機会も多かったのですけれど、遺伝性の乳癌・卵巣癌のタイプの方でなくても、「自分が乳癌になったというのは、その遺伝子を持っているかも知れない」と、乳癌であるというだけでも家族の方の発症率は高まるので、「自分の娘にもその遺伝子を渡しているのではないか。自分の乳癌を切ったのと同じぐらい、もしくはそれ以上に罪悪感みたいなものが感じられる」と言われた方もありましたし、未婚で妊娠の経験のない若い方で卵巣癌と診断された時に、卵巣を残すのか、その手術で一部を残すのか、全摘するのかという、ものすごい苦渋の決断をされるというケースもありましたから、この診断を受けるということも、その方にとっては費用とかいうことには代えられないぐらい非常に悩まれるということと、例え分かった後も、日本では予防的なところでは保険適用外であるとか、まだメジャーな手術ではないというところを思うと、受けること自体で余計に混乱されるのではないかなと思うのです。他の家族の方が拒否されたとしても、本人の意思で受けた方が陽性だったとしたら、血縁関係の方の人生も左右するので、診断がついてそこで何らかの治療があって、QOLを高めて生きられるという完全な保証があれば、頑張って受けようかなと思うかも知れませんが、診断をつけたら終わりということではないなぁというのが私の感想で、私自身も、もし「可能性があるから受けてみないか」と言われたら、非常に悩むかなと思います。

小原 そうですね。これまで言われてきた知らされる権利・知る権利・知らされない権利は、それぞれメリット・デメリットがあると思うのですよ。今まであれば、仮に発症率が高くても、知らなければ少なくとも発症するまで気楽に生きれたと…。しかし、早く知らされることによって予防する余地は生まれるけど、同時に不安も本人だけではなく、周りの人にも拡散していくわけです。それをトータルに整理するというのは極めて倫理的な課題としてあると思います。ですから、今、遺伝子検査というのは出生前検査もそうですし、アルツハイマーに関しても血液検査だけで発症率がかなり分かるようになっていますけど、これも予防の道筋がきちっと立てばそれなりに意味があると思うのですけども、それが立たない前に「あなたは60代になったらかなりの確率でアルツハイマーになりますよ」と言われると、かなり強烈な告知になりますよね。そういうことが全部リンクしていると思うのですよ。取りあえずここでは個別にBRCA1/2の議論はしていきますけれども、かなり共通した時代の課題が集約されているなと感じます。
アンジェリーナジョリーさんが切除された直後、かなり議論になって、それが公開批判も含めて賛否の両方があったと思うのですが、それ以前に、遺伝子検査をしたいという国内的な需要がどれぐらいあるかということなんですね。恐らくアメリカでは日本以上に既に認知されていて、需要がそこそこあると思うのですけれど、日本は多分これからだと思うのですよね。例えばここの病院でこういったことがオッケーとなった場合、今、乳癌検査・子宮癌検査をするのと同じようなレベルで、それを全面に「ぜひ受けて下さい」という形で出して、きちんと予防治療に準備できるようにするのか、位置付けについてはどうお考えですか。

名嘉山 遺伝性乳癌・卵巣癌症候群については、予防の方法がないわけではなくて、乳房を取ることによって乳癌については98%、卵巣癌については腹膜癌という仲間もありますので85〜90%ですけども、かなり予防ができ、アルツハイマーになってしまうとかいうのとはかなり色合いが違いますので、遺伝子検査と言うとどうしてもネガティブな情報に囚われがちですけども、ご自身の人生設計とかを考える中では、ポジティブなデータにもなり得る内容だと思うのです。
そういった観点に立って、昨年の夏にウチの病院で「私の乳癌、遺伝するの?」というタイトルで、患者さんや周りの方に広告を打って集め、遺伝子検査をする会社の人にも遺伝性乳癌の話をしてもらいました。確かに需要ということでは、その後の個別相談を受けたのは3名ぐらいで、「周りの方にどう話をしたら良いのか」「自分は乳癌もなっていないので調べる意味はあるのだろうか」「周りの人にいるが、これはどういうことだろう」ということで、結局はいずれの方も検査までは進まれませんでした。
ウチの病院は卵巣癌についての予防的な方法も手が出せると思いますが、予防的な乳房切除で人工物を入れて再建するというのは、形成外科の常勤がいないと保険適用にならず、そこがアキレス腱になっていますし、日本人はアメリカ人より本当はHBOCの人間が多いのではないかと言われていますが、もう少し普及してみないと本当の率が分からないので、もっと検査を勧めないといけないのか分からないのですけども、かなり意識して取り組んできた病院ではありますし、府立医大の遺伝学教室と患者さんのやり取りもあったりしますので、こういう検査は日常的に行えるということを伝えていっても良いのではないかと思っています。

勝村 聖路加とかでやる時は1例1例、倫理委員会を開くのですか。

名嘉山 予防的切除についてはそうみたいです。

小原 まだ、かなり慎重にされているということですね。

勝村 では、もしここでも始めるとしたら、1例1例に倫理委員会ということですか。

名嘉山 どういう段取りで進めたら良いのか…。数が多くなってきたら大変じゃないですか。

勝村 これはやっぱり1例1例が違うと思うのですね。これを読んだら、何歳までに何%と書いてあるけど、何歳ぐらいといっても実際の統計では曲線のグラフになっていたりとか、発症だけでなく予後がどうなっていくかといったデータが、ここで議論する時にも欲しいし、患者に説明する時にも要ると思う。

名嘉山 そういったグラフも実際にありますし、乳癌の死亡率は普通の乳癌と変わらないと言われていますが、卵巣癌はかなり高率に致死的な疾患になってしまうようですので、資料として提供させていただきます。

小原 仮にこの病院で発端者向け・血縁者向けの案内を出す時に、今日の資料のようなものが殆ど同じように使えると考えて良いのですか。あるいは、病院の状況に応じてカスタマイズするような箇所はありますか。

名嘉山 一応、これはこの病院の状況に応じてちょっとカスタマイズした内容になっています。

原 遺伝カウンセリングの態勢については、この遺伝子に関かるセミナーを受講されたという話でしたが、それは乳癌学会ですか。

名嘉山 いや、家族性腫瘍学会です。

原 それは今のところドクターということですよね。

名嘉山 看護師も…、

原 ナースもいるということですか。受講するのはどれぐらいの時間ですか。

名嘉山 3日間、缶詰状態です。で、そういったカウンセリングの実際の論理とかも含めた内容です。

原 それはこの遺伝子腫瘍ですか、それとも家族性腫瘍に関するカウンセリングですか。

名嘉山 いえ、家族性腫瘍の中のそれぞれの疾患毎にセミナーが開かれ、今回の場合は遺伝性乳癌・卵巣癌症候群についてのセミナーということです。

原 一般的に遺伝カウンセラーというと、かなりの養成課程を経るものですよね。全般的な態勢を採るというのはそう簡単にはいかないと思うので、遺伝性乳癌について、おっしゃられたセミナーで足りるのかの判断は今のところつかないのですが、一般的な遺伝カウンセリングもかなり入っているということですか。

名嘉山 そうなんです、はい。

原 主治医は当然、説明できた方が良いのですけど、主治医ではやはりカウンセリングにはならないので、別のところのスタッフか、担当診療科のナースが良いのかどうか、まだ検討の余地があると思います。どういう態勢を採るかというのが関係すると思います。

小原 今日に全部を決めることは到底できませんので、次回に継続して引き継ぐ為に、今のことも含めて、一旦ここで整理をしたいと思います。今日の資料としてB1・B2をご用意いただき、実際にこの病院で遺伝子検査を始める時の為の、発端向け検査用と血縁者向け検査用の説明文書を用意していただきました。それから、今日の議論に出てきました遺伝カウンセラーの話もありますし、実際にこの検査を行った結果の予防的な処置として乳房切除などをする場合に、聖路加がやっているように1件1件を委員会に掛けるかどうかといったことや、検査から実際の治療に至るまでのガイドライン的なものを、実施前に考えておく必要があると思います。その他に皆さまの方で「これは議論の為に実施に先立って準備して欲しい」というようなものはございますか。

一家 資料のことではないのですが宜しいですか。我々が倫理委員会で承認すれば、この病院で始まるのですか。病院として始める為の最終確認を我々は求められている状況なのですか。我々の意見を踏まえて病院の方でもう一度考えるということですか。

名嘉山 自分も、倫理委員会に提案させていただいて、手順がどうだとか、どういう答えをいただけるのかというのは、正直よく分かっていないです。ただ、倫理的な問題が多く含んでいると思いましたので、そのあたりでどういうところを詰めていかなければいけないかを教えていただきたいと考えたのですが、最終判断は恐らく院内の諸会議とかで「態勢がこれで、じゃぁこれでやって良いよ」という判断をいただくことになるかと思います。

一家 病院としてはかなり前向きと考えて良いのですか。

名嘉山 よく分からないです。

東 病院の中では、こういうことを話したことはないですね。ただ、倫理委員会で大きな倫理的な問題がないということになれば、医療としての需要や必要性があれば、中長期的にはやっていく方向になると思います。

小原 そういう意味ではここでの判断が大きく左右するということですね。一応そういうことを前提に次回の議論に望みたいと思います。いかがですか、何か付け加えて欲しい資料などはございますか。

一家 直ぐにパッと出ないのでメールとかでも宜しいですか。

小原 そうですね、後で気付けばそれで対応して下さい。では、今日はお話を伺ったということに留めますが、無茶苦茶急ぐわけでなくても、無駄に先送りしても意味がありませんので、大きな問題がなければ次回にある程度は結論に近いところまでいけるようにしたいと思いますので、なるべく完成度の高い資料をご準備いただきたいと思います。ありがとうございました。では、議題(4)はここまでにしたいと思います。
では「(5)治験審査」ということで、これに関するご説明をお願いします。

 

議事(5)「治験審査」

※治験審査1例検討しました。

小原 はい。取りあえず、この件に関しましては賛成多数ということで、承認したということで進めさせていただきます。ありがとうございました。
では、今日は完全に時間オーバーしていますので、予定していました(6)(7)に関しましては今日に取り扱うことはできません。それで、「(8)その他」の報告は直ぐにできますよね。冨田先生ですか。簡単にできるなら済ませて欲しいのですけど、もし時間が掛かるようであれば、次回でも構いません。

 

議事(6)「臨床研究迅速審査報告」

丸山 迅速審査の状況は資料Eになりますけれども、この間、この2例が迅速審査で承認されました。

小原 この報告の確認で宜しいですね。ということでご理解下さい。それぞれ外部委員・内部委員のお名前を書いている通り、この形で進めさせていただきました。
では、今日に予定していてできなかった部分もあるのですが、新たに出てきた議題も含めまして、次回の議題とさせていただきます。では最後に「今後の倫理委員会日程」ということで、ご提案を宜しくお願いします。

 

議事(7)「今後の倫理委員会日程について」

根石 今まではその都度、次回の日程を協議していましたけれども、「やはり出席数の問題だとか、事前の予定とかを含めて、ある程度は日程の年間予定を組んだ方が良いのではないか」というご意見をいただきまして、年間予定の日程を提案させていただきたいと思うのですが、今日は6月で2ヵ月毎ということで、偶数月の第1木曜日を定例ということにさせていただこうというのが提案です。ただし、10月については外部交渉した行事を予定しておりまして、10月だけは第4木曜日で提案したいと思っております。

小原 次回は8月7日ですね。10月だけを例外として、今のルールで年度末までの予定をメールで皆さんにお知らせしていただけますか。それがいちばん良いと思います。それを、これからは年度始めか年度終わりに一覧を出していただければ、多分、皆さんは計画を立て易いと思いますので、それで宜しくお願いします。
では、長時間に及びましたけれども、本日の倫理委員会はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。

 

 

 

(入力者注)

文章は全体を通して、話し言葉を書き言葉に改めたり、意味の通じにくい言葉を言い換えたり、同じ発言の繰り返しを省くなどの推敲を行い、やや要約した形になっていますが、発言者の意図を正確に伝えることを最優先にしています。

 

 

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